或る旅2

おでかけ記録です。ライブドアからはてなに移転しました

東海道本線の静岡区間についての考察

1.はじめに
夏休み。
青春18きっぷシーズン真っ只中である。
11,850円で5日間日本のどこへでも行けるこのきっぷを使って旅行する人も少なくはないだろう。
一日あたり約2300円で、到達可能な限りはどこへでも行けるのだから、日本で最も”お得”
なきっぷと言っても過言ではないだろう。
ところが、ご存じの通り青春18きっぷで利用できるのは「普通列車(快速、新快速も含む)」のみだ。
18きっぷだけでは新幹線や特急、急行列車に乗車することはできない。
そのため、多くの18きっぷ利用者(以下18きっぱー)は極力普通列車のみで移動しようとする。

例えば、関東と関西の間の移動も、時間こそかかれど普通列車で移動できれば、新幹線を利用した場合と比較すると約1万円の節約になる。そのお金で観光や買い物が楽しめると考えると、時間をかけてでも18きっぷで移動したくなるものだろう。
だが、ここで多くの18きっぱーたちを悩ます問題がある。

それは、「静岡県の存在」である。

静岡県はご存じの通り横に長く、その長さは115㎞にも及ぶ。
東は神奈川県、西は愛知県に面し、東西の文化も大きく異なっている。

そんな静岡県、通称「静岡大陸」を18きっぷで通過するにあたり、どのような問題があるか。
また、各区間ごとの特色についても見ていこうと思う。
なお、この記事の情報は2017年8月現在のものである。今後動きがある可能性もあるので各自注意されたい。

2.静岡県はなぜ鬼門か

静岡県が鬼門と呼ばれる所以は以下の4つが考えられる。
①快速列車がない
②座席がロングシートのみ
③トイレ無し列車の存在
④長い

これらの問題について、一つひとつ見ていこう。

①快速列車が存在しない
全列車が「普通列車(各駅停車)」である。
JR東日本には快速アクティがあり、浜松以西の東海区間JR西日本区間には新快速が存在する。速度の差はあれど、いずれも「駅を通過する」という点で、主要都市間の移動をメインとする18きっぱーにとってはプラスになる存在といえる。
すなわち、全ての駅に停車する普通列車は都市間移動においてはストレスフルな存在なのである。

②座席がロングシートのみ
理由として考えられるのは、「在来線は短距離間移動」、「新幹線は中長距離間移動」と、JR東海としては棲み分けをしているからではないかということである。
例えば、静岡~藤枝とか、浜松~袋井とか、30~40分程度で移動できる区間は在来線の利用を、一方で三島~静岡というような中距離では新幹線を、それぞれ想定しているものと考えられる。
(それにしては県内に停車する新幹線の本数が極端に少ないと思えるのだが…)

短距離間の移動にターゲットを絞るのであれば、確かにロングシートでもよいような気はする。
だが、先述の通り18きっぷは新幹線の利用ができない。長距離移動客である18きっぱーたちはロングシート車両に苦しめられることになるのである。

ちなみに、始発の静岡5:01発岐阜行きの普通列車クロスシート車両である。
静岡をクロスシートで移動してみたい、ということであれば一度乗車してみることをおすすめする。

③トイレ無し車両の存在
これは、全ての列車がそうであるとは言い切れず、避けることも可能ではあるが、「運」次第だったりする。
IMG_0026
トイレ無し車両の「211系5000番台」
211系車両にはトイレがない。こいつが単独3両でやってきたときには、いろいろと覚悟したほうがいいだろう。

IMG_0017
こちらは313系。トイレがついている。
313系単体、もしくは211系でも313系と連結されている列車はトイレを利用できる。
熱海~浜松の移動の際には頼もしい存在といえる。

静岡県内を走る東海道本線を走る普通列車の車両は、主に上に挙げた二種類である。
373系という車両もあるが、これは特急やホームライナーといった一部の運用にしか就かない。
ホームライナー18きっぷの利用ができる。これについては後述する。

④長い
上述の3要素が重なり、なおかつ熱海~浜松の通過に3時間も要することを考えると、大変長く感じられるものだといえる。私自身、トイレ無しの3時間を経験して地獄を見たことがある。
同じような風景、延々と停まっていく駅…
大して面白いわけではない静岡県区間は苦痛である。
しかしながら、一つひとつ区間を区切って見ると、少しはそれは緩和されるのではないかと考えた。
以下で、熱海~浜松間の区間を大まかにわけてそれぞれの風景やその特徴を述べていきたいと思う。
なお、浜松~新所原間も静岡県内ではあるが、311系などが運用に就いていたり、中京地区と直通している列車も多いので今回は取り上げない。

.各区間の様子
さて、ここまで静岡県東海道本線についての(18きっぱーが抱える)問題について取り上げてきた。
ここからは、県内を以下のような大きなブロックに分け各区間の様子について述べていきたい。

①熱海~沼津
②沼津~静岡
③静岡~掛川
掛川~浜松

①熱海~沼津
IMG_0995
熱海駅
静岡県最東端の駅であり、管理自体はJR東日本が行っている。
東京方面からの列車の多くは熱海を終点としており、多くの場合この駅で乗り換えることになる。

熱海を出た列車は、伊東線来宮駅の横を通過するとすぐに丹那トンネルに入る。
丹那トンネルの長さは7㎞にも及び、通過には約10分を要する。トンネル内では携帯は使用できない。
この丹那トンネルの功績は、それまでは現在の御殿場線のルートをとり迂回していた東海道本線の所要時間をぐっと縮めたことにある。これにより東西間の人や物の流れが活発になったのは確かである。
このトンネルの建設が困難を極めたものであったことはよく知られている。湧水や崩壊事故、地震などにより、本来の予定よりも約9年も遅れての完成したのである。その間、それらの災害で何人もの建設従事者が犠牲になった。
新幹線のトンネルである新丹那トンネルのある現在もなお、貨物列車はここを通過しており、東西の物流にとって欠かせない存在となっている。

列車は丹那トンネルを出ると、函南に到着する。
あまり関係はないが、函南は「箱根」の「南」という意味で「函南」というらしい。

函南の次は三島。
三島では、伊豆箱根鉄道駿豆線に乗り換えができる。
駿豆線には特急踊り子号が乗り入れるが、車体長の関係でホームに加工がなされている。
(説明が難しく写真があればいいのだが、あいにく持っておらず…)

沼津では御殿場線と合流することになる。
IMG_5142
東京方面の直通列車も沼津始発が何本か設定されている。
アニメの聖地としてもここ数年注目を浴びており、沼津を訪れる観光客も増えている。
JR東日本JR東海の間をまたぐ場合はICカードの相互利用ができない。そのため、沼津では多くの客が精算所の列を形成している。すなわち、熱海以東でSuica等で入場してもそのまま沼津で降りることはできないのだが、そのことを知らない客が非常に多いのである。
東京方面から沼津に来る際は、紙のきっぷを購入する必要がある。
一方、静岡方面からでも函南以東すなわち東京や熱海、伊東線方面へ向かう際は同様に紙のきっぷが必要となる。
ICカードについては、システム上の問題であり今後改善が求められるものの一つであるといえる。

②沼津~静岡
沼津を出ると、片浜、原、東田子の浦と進んでいく。
地図上では駿河湾は近いのだが、オーシャンビューというわけではないのがなんとも残念ではある。

吉原では岳南電車に乗り換えができる。IMG_5592
IMG_5222
岳南電車については、以前ここで記事にもしたのでそちらを参照されたい。
吉原付近では製紙工場などの工業地帯を眺めながら進む。

IMG_9823
富士駅
身延線に乗り換えができる。
また、特(に)急(がない)ワイドビューふじかわ号も、当駅で進行方向を変える。

富士を出ると、富士川、新蒲原と進んでいく。
富士川では背後に大きく富士山を見ることができる。

新蒲原、蒲原、由比では左手に駿河湾、晴れた日には富士山も見られる。
DSC00696
東海道本線の車内から見える富士山。

由比付近は最も駿河湾と接近する区間である。
歌川広重の「東海道五十三次」にも登場する薩た峠を過ぎると、興津に到着。

興津、清水、草薙、東静岡、と列車は進んでいく。
清水と草薙の間では、静岡鉄道の電車との並走も見られる。静鉄は清水~草薙の短い間に小さな駅がいくつかある。それを眺めながらJRの列車はすごい速さで走っていくのである。
IMG_9065
静岡駅。
都道府県代表駅だが、ホームは2面4線という省スペースな作りである。
最近改装されたパルシェという商業施設が併設されているなど、一応それらしい施設は充実している...

③静岡~掛川
静岡を出るとすぐに安倍川を渡り、左へカーブしていく。
ここもまた地図上では駿河湾に近づく箇所ではあるが、車窓からは見えない。

安倍川、用宗を過ぎると、列車はトンネルに入る。
焼津、西焼津、藤枝、六合、この辺りは静岡の通勤圏なのであろう。
夕方の時間帯にはこれらの駅で乗客の入れ替えが起こる。
なるほど、やはり在来線は短距離客を想定したものなのだ。

島田は、東部からの列車の終点にもなる駅である。
静岡大陸のおよそ中間地点ともいえる場所で、18きっぱーにとって「島田行き」ほど厄介なものはないだろう。
IMG_4703
こういってはなんだが、そこまで規模の大きい駅ではなく終点になりそうな雰囲気ではない。
島田市内についてもまた、以前記事にして紹介したので省略する。

島田を出ると、大井川を渡る。
IMG_5263
IMG_5286
かつて東海道では、薩た峠と並んで難所として知られた大井川。
江戸時代には橋や渡し舟すら掛けられなかったこの川を、今はトラス橋がいくつも連なって列車を通している。

列車は橋を渡ると、金谷に到着する。
IMG_5318
金谷からは、SL列車で有名な大井川鐡道が出ている。
SL列車は隣の新金谷駅からなので金谷駅では見られないが、以前南海電鉄東急電鉄などで用いられていた車両が現役で走っている姿を見ることができる。

金谷を出ると列車はトンネルに入り、大きく左へカーブする。
静岡県の内陸部を西へ向かって走っていく。山間といった印象の地域である。
菊川を出ると、次は掛川である。

掛川付近に近づくと、新幹線の線路も見えて来る。

掛川~浜松
掛川駅は新幹線の停車する駅としては唯一、木造の駅舎を有する駅である。
(写真は用意できなかった)
また、天竜浜名湖鉄道線はこちらで乗り換えとなる。

後述のエコパアリーナでのイベントの際には新幹線から多くの人が乗り換える。DSC_1221
このようなホワイトボードが出る。

掛川の隣の愛野にはエコパアリーナがある。
普段は静かなこの駅も、イベント開催時には多くの人が利用するためホーム上が人であふれかえる。

先日開催された某イベント時にも、終演後のホームは非常に混雑していた。
本数も特別に増発したわけではなさそうだったが、よくも捌けたもんだと感心したものである。
また、ホームの目の前には新幹線の線路が通っており、新幹線の速さを実感することができる。
ちなみに、東静岡駅も同様の構造になっている。

列車は袋井、磐田と西部の都市を進んでいく。
豊田町を出ると、天竜川を渡る。
天竜川は長野県に源流のある川で、上流では険しい地形を形成しており「暴れ川」といわれている。飯田線と並行して流れていることでも知られる。

天竜川を出て、新幹線と並走するようになるといよいよ浜松である。
IMG_2478
深夜の浜松駅。
ムーンライトながらは浜松で長時間停車があり、終電~始発の間の浜松駅の様子をゆっくり観察することができる。
DSC00730
コンコースは静岡駅と同じような雰囲気である。これだけ見せられても正直違いがわからない。

駅前にはメイワンや遠鉄百貨店などの商業施設が充実している。アクトシティ浜松では大きなコンサートが開かれる。さすがは楽器の街といったところである。
DSC_0218_1
大都会浜松…。
遠鉄電車の新浜松駅は、この写真から見て背後に位置する。
遠鉄もまだ乗ったことがないので、いずれ乗ってみたいと考えている。
DSC00735
先述の通り、浜松からは豊橋や岐阜といった中京エリアへ向かう列車が出ており、ここから先は静岡県の雰囲気があまりないように思われる。
浜名湖の見える弁天島付近の風景も取り上げたかったが、ここでは割愛する。

さて、ここまで各駅停車を利用しての静岡県通過のイメージについて紹介した。
だが、どうしても静岡県を行ったり来たりするのが嫌だ、という場合にはこれらをうまくスルーする方法もあるので紹介しておく。

4.静岡県のワープ方法
静岡県をワープする方法には次の二つがある。有名な方法かもしれないが、一応紹介する。
・新幹線を利用する
ホームライナーを利用する

残念ながら、いずれも”課金”が必要となる方法ではあるが、この静岡大陸をとっとと通過したい、という場合には大変有効である。

・新幹線を利用する
新幹線には、隣接する駅どうしの利用であれば自由席特急券がキロ数を問わず890円もしくは980円に統一されるという特例がある。「こだま号」の短距離客の利用を図った制度であるといえる。
静岡県内では静岡~三島、静岡~浜松でそれぞれ適用される。
お気づきの方もおられるかとは思うが、静岡~三島間には新富士、静岡~浜松間には掛川が、それぞれ中間駅として存在している。これは、この特例が設定された当時にこれらの駅が存在していなかったためである。
この制度を活用し、普通列車と組み合わせることで静岡県をワープできるようになるだろう。

ただ、「こだま」の本数も、「のぞみ」のそれと比べるとはるかに少ない。
また、18きっぷを持っていても乗車券の購入が別途必要となる。
利用の際にはきちんと計画を立てる必要があり、また、乗車券代の追加の出費も必要である。

ホームライナーを利用する
IMG_9074
発車を待つ373系ホームライナー沼津」号
ホームライナーは、平日の朝もしくは夕方に運行する列車である。
なんといっても、その特徴は「駅を通過する」「クロスシートである」という点だろう。
この2つの要素が存在しない静岡県東海道本線においては大変貴重な存在であるといえる。
JR東海ホームライナー18きっぷのほかに、乗車整理券320円を追加で支払う必要がある。
しかし特急券などと異なり、どこまで行っても320円である。
それで、ストレスフリーな速度と快適な座席を享受できるのだからはるかに安いものである。

例えば、沼津18:31発「ホームライナー浜松3号」(4383Ⅿ)は沼津と浜松を直通する列車である。
そして、なんとこの列車は浜松到着後にそのまま豊橋行きの普通列車(977Ⅿ)になるのだ。
いわゆる「乗り得」列車である。
多少の課金はしても、快適さを求めるのであれば十分ではないかと考えられる。

ただ、ホームライナーは曜日や時間帯を選ぶという点で自由度は低い。
あえて「乗りに行く」くらいの勢いがなければ上手く旅程が組めないのではないかと考えられる。

最も「苦しい」が、旅程やお財布に優しいのは普通列車のみでの移動である。
しかし綿密な計画と多少の余裕があればこれらの手段で「苦痛」を軽減できるのも確かだ。

静岡県内の移動は、工夫次第で案外楽にできたりするのかもしれない。

5.おわりに
さて、ここまで静岡県内の東海道本線について見てきた。
情報と経験の不足からあまり伝えきれていなかったとは思うのだが、18きっぱーから「静岡大陸」だの「鬼門」だのと言われている状況を見て、車窓に何かしらの楽しみを見出したり移動の際に工夫をすることで、静岡の移動は楽になるのではないかと考え今回の記事を書くに至った。
18きっぷシーズンはあと少しだが、より多くの人に鉄道旅行を楽しんでもらいたいものである。