マレー縦断鉄道旅 ⑨憧れの寝台列車でバンコクへ その2
あえて狙いでもしない限り一生乗る機会はないであろうタイの寝台列車に乗っている。
シンガポールからマレーシア、そしてタイへと陸路で北上するこのルートは終盤を迎えていた。
こんなルート、ほかにやっている日本人はいないだろうと”油断”していた。
そんな折、
「もしかして日本人の方ですか?」
こんな日本から何千キロも離れた異国の限界ルートで、日本人と出会ってしまった。
左手に沈みかけの太陽を見ながら北へ進んでいく列車。
彼女は、私と同じ日本人の大学生のようだ。M氏としておこう。
そして、同じように東南アジアを旅しているのだという。
彼女と日本語で会話をしていたのはマレーシア人の男性で、小学生の息子を連れてタイへ旅行しているのだそうだ。彼は日本の高専に留学に来ていたのだという。
マレーシアに帰国して長いとはいうが、それにも関わらず流暢な日本語を話していた。
M氏と彼ら親子もまた、パダンベサールで出会ったのだそうだ。
一人旅のつもりでいたし、もちろんそれを嫌だとは思わなかったが、寝台列車に1人で乗るのは少し寂しいとも思っていた。
これもまた楽しいと思った。
・ハジャイ駅
パダンベサールを出てタイ国内をしばらく走った列車は、ハート・ヤイ(ハジャイ)ジャンクション駅に到着した。
ここでは、マレー鉄道の東海岸ルートの路線と合流する。
マレー半島中部における交通の要衝といった雰囲気である。
カメラに気づいてピースをする屋台の女性
ハート・ヤイ始発の寝台列車だろうか。パダンベサールのイミグレーションで一緒になった日本人男性二人はこちらに乗っているのだろう。
我々の乗っている列車の車体は古いタイプのものだが、こちらは最近導入された中国製の新型車両らしい。
・列車は走る
日本の夏の夕方を思わせる、少し涼しい風。
マレーシアと違い、ホームが低いのがタイの特徴といえる。
列車はそんな夕方の空気のなか再び動きだす。
西の空のオレンジもだんだん小さくなっていく。
窓の外が暗くなっていく。列車は、ガタンゴトンと走り続ける。
列車はいくつかの駅に停まっていくが、ここは縁もゆかりもない異国の土地。
自分がどこにいるのかも、終点までどれくらいなのかも、想像がつかない。
だが、そこに日本の鉄道旅行にはない面白みを感じたりもするのだ。
窓の外が完全に暗くなった頃、係員がやってきてベッドメイキングをする。
慣れた手つきでベッドの形にセットし、シーツなどを敷いていく。
数分で座席はベッドへと変わった。
私は下段のベッドだった。
上段は狭いうえ、何より窓の外が見えないのである。
タイ国鉄のチケットは日本からもネットで予約することができるが、なんとなくで選んだ下段で正解だった。なお、料金は下段のほうが少し高い。
高いといっても、パダンベサールからバンコクまでの約1000㎞の距離で3600円ぐらいなのだが…。
ハート・ヤイで連結を行ったようだ。見たところ、寝台ではなく座席の客車のようだ。
なぜか車内探検をしようという気にはなれなかった。
荷物から離れるのは少し危険だと思った。
自分のスペースで窓の外を眺めてみる。
周囲に何もないからか、今まで見たことがないほどの星空が広がっている。
そういえば、今回の旅では都市ばかりに宿泊していたので、まともに星空を見るのは初めてかもしれない。
車窓は基本的に真っ暗だが、明かりがちらほらと見えてくると列車は減速し始めて駅に停まる。
日付をまたいでも、それを繰り返していた。
それでも、乗り降りする人たちは少なからずいるので、人々は純粋に「移動手段」として使っているのだなと思った。
・旅は道連れ...
さて、私はバンコクに到着して、マレー縦断が完了してからの旅程について計画していた。
本当はタイ北部に行く予定だったので日程には余裕を持たせていたのだけれど、諸事情により今回はパス。
タイ国内でブラブラしてもよかったが、ある考えがあった。
どうせなら、と思ってM氏に話してみた。彼女は今回ノープランだからである。
「あの、カンボジア行くんですけど、一緒に行きません?」
「いいですねー!行きます!」
そんなわけで、バンコク到着後の予定がここで決まったのであった。
・朝がきた
数時間眠っていたら、窓の外が明るくなっていた。
反対側の窓から。朝だ。
タイに入ってからというもの、果物を売る人が列車内の通路をうろうろしている。
彼らは夜中でもお構いなしだったが、朝になってからもっと活発に行ったり来たりを繰り返している。
鉄道関係者なのか勝手に売っているのか...。よくわからないが、買っている人は少なくないようだ。
朝とはいえ、列車がバンコクに着くのは10時頃なのでまだまだ先は長い。
しばらくすると、再び係員がやってきてベッドは座席に戻った。
この作業を繰り返すのは大変だな...。
・旅の終わり バンコクへ
午前10時前。列車はスピードを落としていく。
気がつけば窓の外には線路に沿って建つ家々や、遠くには高層ビルがそびえているのが見えた。
バンコク都内に入ったようだ。
遅れるという評判を聞いていたタイ国鉄の列車であるが、この列車は大幅に遅れてはいない。たまたまなのか、運行技術が向上したのか、気になるところではある。
列車はバンコクのファランボーン駅手前で、停まっては動き、停まっては動き、を繰り返している。
大規模なターミナル駅なので、列車の発着に際して時間が掛かるのだろう。「渋滞」と表現してもよかろう。
車掌が「ファランボーン、ラストステーションー」などと言いながら通路を行ったり来たりしている。
タイ国鉄は、マレーシアとは違い車内アナウンスや、そもそも車内放送というもの自体が存在していない。主要駅や終点までだったら問題ないだろうが、途中駅なんかだったら大変だろうなと思う。
線路が広がっていくこの感じはヨーロッパの中央駅の雰囲気もある。
荷物をまとめ始める乗客、慌ただしくなる車内。そして、新しい街への期待。
終点に着くときの列車内の風景は、どの国に行っても同じものである。
10:10頃。ほぼ定刻でバンコクはファランボーン(สถานีรถไฟกรุงเทพ、Hua Lamphong)駅に到着。
マレーシア・パダンベサールから15時間以上の旅だった。
着いて早々、日本からやってきた12系客車を発見。色を変えて第二の人生を歩んでいるようだ。
ヨーロッパの中央駅然とした構造。国内の長距離列車は基本的にここから発着する。
ファランボーン駅の待合所だが、ベンチの数が足りていないのか人々は躊躇なく床に座っている。
駅構内の両替屋で地下鉄に乗れる程度のタイバーツを入手する。
調べたところ、中心部に行けばもっと良いレートで両替できる場所があるのだそう。大きなお金はそちらで替えてしまおう。
さて、ここでマレーシア人親子とはお別れである。彼らはこの日の夜行列車で、タイ北部のチェンマイへ向かうのだそうだ。
ファランボーン駅の外へ出る。
距離にして約2000㎞。
こうして、マレー半島最南端シンガポールから、マレーシアを経てタイへと北上してきた鉄道の旅は幕を閉じたのであった。
が、東南アジアの旅はまだまだ続く。
着いたばかりだが、明日カンボジアへ向かうため早朝の列車でこの街を発つ。
次の移動まで時間が無い。我々は、バンコクの中心部へと歩き始めたのであった。
「マレー縦断鉄道旅」 おわり
...旅は続きます(カンボジア編?につづく...かも)
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シンガポールからマレーシア、そしてタイへと陸路で北上するこのルートは終盤を迎えていた。
こんなルート、ほかにやっている日本人はいないだろうと”油断”していた。
そんな折、
「もしかして日本人の方ですか?」
こんな日本から何千キロも離れた異国の限界ルートで、日本人と出会ってしまった。
左手に沈みかけの太陽を見ながら北へ進んでいく列車。
彼女は、私と同じ日本人の大学生のようだ。M氏としておこう。
そして、同じように東南アジアを旅しているのだという。
彼女と日本語で会話をしていたのはマレーシア人の男性で、小学生の息子を連れてタイへ旅行しているのだそうだ。彼は日本の高専に留学に来ていたのだという。
マレーシアに帰国して長いとはいうが、それにも関わらず流暢な日本語を話していた。
M氏と彼ら親子もまた、パダンベサールで出会ったのだそうだ。
一人旅のつもりでいたし、もちろんそれを嫌だとは思わなかったが、寝台列車に1人で乗るのは少し寂しいとも思っていた。
これもまた楽しいと思った。
・ハジャイ駅
パダンベサールを出てタイ国内をしばらく走った列車は、ハート・ヤイ(ハジャイ)ジャンクション駅に到着した。
ここでは、マレー鉄道の東海岸ルートの路線と合流する。
マレー半島中部における交通の要衝といった雰囲気である。
カメラに気づいてピースをする屋台の女性
ハート・ヤイ始発の寝台列車だろうか。パダンベサールのイミグレーションで一緒になった日本人男性二人はこちらに乗っているのだろう。
我々の乗っている列車の車体は古いタイプのものだが、こちらは最近導入された中国製の新型車両らしい。
・列車は走る
日本の夏の夕方を思わせる、少し涼しい風。
マレーシアと違い、ホームが低いのがタイの特徴といえる。
列車はそんな夕方の空気のなか再び動きだす。
西の空のオレンジもだんだん小さくなっていく。
窓の外が暗くなっていく。列車は、ガタンゴトンと走り続ける。
列車はいくつかの駅に停まっていくが、ここは縁もゆかりもない異国の土地。
自分がどこにいるのかも、終点までどれくらいなのかも、想像がつかない。
だが、そこに日本の鉄道旅行にはない面白みを感じたりもするのだ。
窓の外が完全に暗くなった頃、係員がやってきてベッドメイキングをする。
慣れた手つきでベッドの形にセットし、シーツなどを敷いていく。
数分で座席はベッドへと変わった。
私は下段のベッドだった。
上段は狭いうえ、何より窓の外が見えないのである。
タイ国鉄のチケットは日本からもネットで予約することができるが、なんとなくで選んだ下段で正解だった。なお、料金は下段のほうが少し高い。
高いといっても、パダンベサールからバンコクまでの約1000㎞の距離で3600円ぐらいなのだが…。
ハート・ヤイで連結を行ったようだ。見たところ、寝台ではなく座席の客車のようだ。
なぜか車内探検をしようという気にはなれなかった。
荷物から離れるのは少し危険だと思った。
自分のスペースで窓の外を眺めてみる。
周囲に何もないからか、今まで見たことがないほどの星空が広がっている。
そういえば、今回の旅では都市ばかりに宿泊していたので、まともに星空を見るのは初めてかもしれない。
車窓は基本的に真っ暗だが、明かりがちらほらと見えてくると列車は減速し始めて駅に停まる。
日付をまたいでも、それを繰り返していた。
それでも、乗り降りする人たちは少なからずいるので、人々は純粋に「移動手段」として使っているのだなと思った。
・旅は道連れ...
さて、私はバンコクに到着して、マレー縦断が完了してからの旅程について計画していた。
本当はタイ北部に行く予定だったので日程には余裕を持たせていたのだけれど、諸事情により今回はパス。
タイ国内でブラブラしてもよかったが、ある考えがあった。
どうせなら、と思ってM氏に話してみた。彼女は今回ノープランだからである。
「あの、カンボジア行くんですけど、一緒に行きません?」
「いいですねー!行きます!」
そんなわけで、バンコク到着後の予定がここで決まったのであった。
・朝がきた
数時間眠っていたら、窓の外が明るくなっていた。
反対側の窓から。朝だ。
タイに入ってからというもの、果物を売る人が列車内の通路をうろうろしている。
彼らは夜中でもお構いなしだったが、朝になってからもっと活発に行ったり来たりを繰り返している。
鉄道関係者なのか勝手に売っているのか...。よくわからないが、買っている人は少なくないようだ。
朝とはいえ、列車がバンコクに着くのは10時頃なのでまだまだ先は長い。
しばらくすると、再び係員がやってきてベッドは座席に戻った。
この作業を繰り返すのは大変だな...。
・旅の終わり バンコクへ
午前10時前。列車はスピードを落としていく。
気がつけば窓の外には線路に沿って建つ家々や、遠くには高層ビルがそびえているのが見えた。
バンコク都内に入ったようだ。
遅れるという評判を聞いていたタイ国鉄の列車であるが、この列車は大幅に遅れてはいない。たまたまなのか、運行技術が向上したのか、気になるところではある。
列車はバンコクのファランボーン駅手前で、停まっては動き、停まっては動き、を繰り返している。
大規模なターミナル駅なので、列車の発着に際して時間が掛かるのだろう。「渋滞」と表現してもよかろう。
車掌が「ファランボーン、ラストステーションー」などと言いながら通路を行ったり来たりしている。
タイ国鉄は、マレーシアとは違い車内アナウンスや、そもそも車内放送というもの自体が存在していない。主要駅や終点までだったら問題ないだろうが、途中駅なんかだったら大変だろうなと思う。
線路が広がっていくこの感じはヨーロッパの中央駅の雰囲気もある。
荷物をまとめ始める乗客、慌ただしくなる車内。そして、新しい街への期待。
終点に着くときの列車内の風景は、どの国に行っても同じものである。
10:10頃。ほぼ定刻でバンコクはファランボーン(สถานีรถไฟกรุงเทพ、Hua Lamphong)駅に到着。
マレーシア・パダンベサールから15時間以上の旅だった。
着いて早々、日本からやってきた12系客車を発見。色を変えて第二の人生を歩んでいるようだ。
ヨーロッパの中央駅然とした構造。国内の長距離列車は基本的にここから発着する。
ファランボーン駅の待合所だが、ベンチの数が足りていないのか人々は躊躇なく床に座っている。
駅構内の両替屋で地下鉄に乗れる程度のタイバーツを入手する。
調べたところ、中心部に行けばもっと良いレートで両替できる場所があるのだそう。大きなお金はそちらで替えてしまおう。
さて、ここでマレーシア人親子とはお別れである。彼らはこの日の夜行列車で、タイ北部のチェンマイへ向かうのだそうだ。
ファランボーン駅の外へ出る。
距離にして約2000㎞。
こうして、マレー半島最南端シンガポールから、マレーシアを経てタイへと北上してきた鉄道の旅は幕を閉じたのであった。
が、東南アジアの旅はまだまだ続く。
着いたばかりだが、明日カンボジアへ向かうため早朝の列車でこの街を発つ。
次の移動まで時間が無い。我々は、バンコクの中心部へと歩き始めたのであった。
「マレー縦断鉄道旅」 おわり
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